「いい人材を採用する」から「いい人材が育つ環境をつくる」へ
― 人は“教育”だけでなく、“職場の空気”で育つ ―
「なかなかいい人が採用できない」
「最近のスタッフは、昔とは仕事に対する考え方が違う」
「もっとクリニックのために頑張ってほしい」
クリニックの院長や管理職の方とお話をしていると、そんな言葉を聞くことがあります。
確かに、働くことに対する価値観は、時代とともに変わってきたように感じます。
以前は、
「会社のために働く」
「長く勤める」
「組織に貢献する」
ということが、働くうえで大切にされる傾向がありました。
今はそれだけではなく、
「ここで何を学べるのか」
「どんなスキルが身につくのか」
「自分自身が成長できるのか」
「仕事と自分の人生をどう両立するのか」
ということを大切にする人が増えています。
これは、決して悪い変化ではないと思います。
むしろ、自分の人生やキャリアについて自分自身で考える人が増えた、と捉えることもできます。
だからこそ、これからのクリニックづくりでは、
「クリニックのために頑張ってほしい」と求めるだけではなく、
「ここで働くことで、その人自身も成長できる」
そんな環境をつくることが、より大切になっているのではないでしょうか。
働く価値観が変わっても、変わらないものがある
一方で、長く人材育成に関わってきて感じることがあります。
働く目的や価値観は変わっても、人の根っこの部分は、それほど変わっていないのではないか。ということです。
「この人と一緒に働きたい」
「この人の役に立ちたい」
「この仲間が困っているなら助けたい」
「自分の仕事を認めてもらえて嬉しい」
「ありがとうと言われると、もう少し頑張ろうと思える」
こうした気持ちは、今も昔も大きく変わらないように思います。
人は、組織の名前だけで動くのではありません。
そこにいる**「人」**によって動くことがあります。
尊敬できる院長がいる。
困ったときに助けてくれる先輩がいる。
自分の成長を喜んでくれる上司がいる。
一緒に頑張りたいと思える仲間がいる。
そんな人との関係が、「ここでもっと頑張りたい」という気持ちを育てることがあります。
「いい人がいない」と嘆く前に
採用をするとき、どうしても私たちは「いい人材」を探そうとします。
経験がある。技術がある。接遇ができる。気が利く。コミュニケーション能力が高い。即戦力になる。
もちろん、採用はとても大切です。
クリニックの考え方と大きく価値観が違う人を採用すれば、お互いに苦しくなることもあります。
だから、誰でも採用すればいいという話ではありません。
でも私は、「いい人材を採用できるか」だけに頼る組織には限界があると思っています。
どれほど素晴らしい人を採用しても、その人が育ちにくい環境であれば、本来持っている良さを発揮できないことがあります。
反対に、入職時には経験が少なくても、教えてもらえる。質問できる。挑戦できる。失敗したときに一緒に振り返ってもらえる。
頑張ったことを見てもらえる。成長を認めてもらえる。そんな環境にいれば、人は少しずつ変わっていきます。
だから私は最近、
「いい人材を採用する」こと以上に、
「いい人材が育つ環境をつくる」ことが大切なのではないか
と感じています。
人は「教育」だけで育つわけではない
人材育成というと、
研修をする。マニュアルを作る。勉強会をする。評価制度を作る。技術を教える。
こうしたことを考えることが多いと思います。
もちろん、どれも必要です。
でも、それだけで人が育つわけではありません。
たとえば研修で、
「患者様には笑顔で接しましょう」
「スタッフ同士で協力しましょう」
「感謝の気持ちを伝えましょう」と教えたとします。
ところが実際の職場では、
誰かがミスをすると陰で責める。
忙しい人がいても誰も助けない。
できて当たり前で、できなかったときだけ注意される。
院長や上司から「ありがとう」という言葉がほとんどない。
そんな環境だったらどうでしょう。
どれほど素晴らしい研修をしても、その内容はなかなか根づかないと思います。
なぜなら、人は言葉で教えられたこと以上に、
毎日その職場で「当たり前に行われていること」を見ながら育つからです。
「ありがとう」が溢れる職場では、「ありがとう」を言える人が育つ
私は、職場の雰囲気は人を育てると思っています。
院長がスタッフに、「今日もありがとう」と言う。
先輩が後輩に、「手伝ってくれて助かったよ」と言う。
受付が看護師に、「さっきフォローしてくれてありがとう」と言う。
誰かが頑張っていたら、「よく頑張ったね」と声をかける。
そんな言葉が日常的に交わされている職場に、新しいスタッフが入ってきたらどうでしょう。
おそらく、その人も自然と「ありがとう」と言うようになります。
反対に、「それくらいやって当然」という空気の職場では、感謝を言葉にする習慣はなかなか育ちません。
私は、
「ありがとう」が溢れている職場では、
「ありがとう」を生み出せる人が育つ
と思っています。
これは接遇研修だけではつくれないものです。
毎日の職場の中で、少しずつつくられていくものです。
職場の「当たり前」が、人をつくる
人は環境に影響されます。
困っている人がいたら誰かが自然に助ける職場では、「助けること」が当たり前になります。
わからないことを聞いたときに丁寧に教えてもらえる職場では、自分が先輩になったとき、後輩にも丁寧に教えるようになります。
患者様への声かけを大切にしている先輩を毎日見ていれば、「患者様には、こう接するものなんだ」と自然に学んでいきます。
反対に、陰口が多い。誰かの失敗を責める。自分の仕事だけ終わればいい。
患者様への対応より業務を終わらせることが優先される。
そんなことが「普通」になっている環境では、新しく入った人も、それをその職場の普通として覚えていきます。
だから、
どんな人材を育てたいかを考えることは、
どんな職場をつくりたいかを考えることでもあります。
「自分のために働く」は悪いことではない
今のスタッフは「自分のスキルのために働いている」。
そう感じる院長もいるかもしれません。
でも私は、それ自体は悪いことではないと思っています。
美容医療についてもっと学びたい。
技術を身につけたい。
患者様にきちんと説明できるようになりたい。
リーダーとして成長したい。
自分の市場価値を高めたい。
そう思うことは、とても自然なことです。
大切なのは、「自分の成長」と「クリニックの成長」を対立させないこと。だと思います。
自分のために学ぶ。
できることが増える。
患者様に提供できることが増える。
患者様から「ありがとう」と言っていただける。
仕事にやりがいを感じる。
もっと成長したくなる。
その結果、クリニックの力も上がっていく。

本人の成長とクリニックの成長が重なる環境をつくる。
これからの人材育成では、この考え方がとても大切なのではないでしょうか。
スタッフを大切にすることが、患者様を大切にすることにつながる
患者様には笑顔で。
患者様の気持ちに寄り添って。
患者様を大切に。
もちろん、とても大切なことです。
でも、ここで一度考えてみたいことがあります。
スタッフ自身は、その職場で大切にされていると感じているでしょうか。
自分は大切にされていない。
話を聞いてもらえない。
頑張っても認めてもらえない。
失敗すると責められる。
そんな気持ちを抱えながら、
「患者様には心から寄り添ってください」
と言われても、難しいことがあります。
患者様を大切にする文化をつくりたいなら、
まず働く人同士が大切にし合える環境をつくる。
私は、その順番も大切だと思っています。
人を大切にすることと「何でも許すこと」は違う
ただし、「スタッフを大切にする」ということは、何でも許すことではありません。
注意しない。指導しない。本人が嫌がることは言わない。すべて本人の希望に合わせる。
それでは、人は育ちません。むしろ、本当にその人の成長を考えるなら、必要なことはきちんと伝える。
できていないことは伝える。
そして、「なぜそれが必要なのか」まで一緒に考えることが大切です。
「あなたがダメだから」ではなく、
「もっとできるようになるために、一緒に考えよう」という関わり方です。
人を大切にすることと、甘やかすことは違います。
成長を期待しているからこそ、伝えるべきこともあります。
ただ、その土台に
「あなたを育てたい」
「あなたの成長を応援している」
という気持ちがあるかどうか。
そこが大きな違いになるのだと思います。
院長やリーダーの言葉が「職場の空気」をつくる
職場の雰囲気は、自然にできるもののように見えて、実は院長やリーダーの影響をとても強く受けています。
忙しいとき、院長がどんな言葉を使うのか。
スタッフが失敗したとき、リーダーがどう対応するのか。
誰かが頑張ったとき、それに気づくのか。
「ありがとう」を言っているのか。
こうした日々の小さな行動が、
「このクリニックでは、何を大切にしているのか」をスタッフに伝えています。
理念を壁に掲げることも大切です。
でも、スタッフが本当に見ているのは、
毎日の院長やリーダーの行動です。
言葉では「スタッフを大切に」と言っていても、実際の行動が違えば、そちらがクリニックの文化になります。
「いい人が入ってくるのを待つ」から卒業する
採用は、これからも必要です。
でも、「もっといい人が入ってきたらクリニックが変わる」と、採用だけに期待するのではなく、
今いるスタッフが育つ環境になっているかを考えてみる。それも、経営者やリーダーの大切な仕事だと思います。
人が育つ職場チェックリスト
□ スタッフが質問しやすい雰囲気がある
□ 新しいことに挑戦できる
□ 失敗したとき、責めるだけでなく一緒に振り返っている
□ 良かったことも言葉で伝えている
□ 「ありがとう」がスタッフ間で交わされている
□ 困っている人を助けることが当たり前になっている
□ スタッフが何を学びたいのかを知っている
□ クリニックが求める人物像を共有している
□ 院長・リーダー自身が、求める行動を実践している
□ スタッフ自身が「ここで成長できている」と感じられる
全部できている必要はありません。
大切なのは、「うちにはいい人材がいない」で終わらせず、
「いい人材が育つ環境になっているだろうか」と、一度立ち止まって考えてみることだと思います。
人が育てば、数字は変わる
私が大切にしている言葉があります。
「人が育てば、数字は変わる。」
でも、人は勝手に育つわけではありません。
そして、研修をすれば育つというほど単純でもありません。
人は、誰と働くか。
どんな言葉をかけられるか。
挑戦をどう受け止めてもらえるか。
失敗したときにどう関わってもらえるか。
そして、毎日どんな空気の中で働いているか。
そんな環境の中で少しずつ育っていきます。
だから、いい人材を探し続けることと同じくらい、
今いる人が、いい人材に育っていける職場をつくること。
それが、これからのクリニックに必要な人材育成ではないでしょうか。
そして、院長がスタッフを大切にする。スタッフ同士が大切にし合う。
その中で育ったスタッフが、患者様を大切にする。
患者様から「ありがとう」が返ってくる。
その「ありがとう」が、またスタッフを育てていく。

そんな循環が生まれるクリニックは、きっと強いと思います。
人が育つ職場には、「ありがとう」が溢れている。
私は、そんなクリニックづくりを、これからも現場の皆さんと一緒に考えていきたいと思っています。
次回は、「患者様が『大切にされている』と感じるクリニックとは」
について考えます。
患者様の名前を覚えることだけではありません。
前回の悩みや治療、不安、その後の経過を覚えている。
そして、「私はこのクリニックで大切にされている」
と感じていただくこと。
今回お話しした「人が育つ環境」が、患者様への接し方にどうつながっていくのか。
次回は、そこをもう少し具体的にお伝えしたいと思います。
株式会社kakaワークスビルディング
美容クリニック現場支援パートナー
樋口 果香

